健康増進法に基づき厚生労働省が公表した「健康日本21(第三次)推進のための説明資料」(2023年5月)では、野菜の1日当たり目標摂取量を350g、果物の1日当たり目標摂取量を200gとし、その根拠を次のような論文から引用し説明しています。また、今回の第三次では、果物の目標摂取量が初めて設定され、果物による健康効果が強調されました。

野菜・果物の摂取量増加と疾患リスク低下

健康日本21(第三次)野菜・果物目標摂取量

野菜・果物の摂取と心血管疾患、癌、死亡との関連性を明らかにするため、システマティックレビューとメタアナリシスを実施した。ランダム効果モデルを用いて要約相対リスク(RR)を算出した。2016年9月までの検索により、95件の研究(文献142報)が含まれた。果物と野菜の合計摂取量200g/日の要約RRは、冠状動脈性心疾患0.92(95%CI:0.90-0.94, I2= 0%, n=15)、脳卒中0.84(0.76-0.92, I2=73%, n=10)、心血管疾患0.92(0.90-0.95, I2= 31%, n=13)、全癌0.97(0.95-0.99, I2=49%, n=12)、全死因死亡0.90(0.87-0.93, I2=83%, n=15)であった。同様の関連性が野菜のみまたは果物のみでも認められた。心血管疾患リスクと全死因死亡リスクは、りんご・なし、柑橘類、緑色葉野菜、アブラナ科野菜、サラダの摂取と逆相関した。また、全癌リスクは、緑黄色野菜、アブラナ科野菜の摂取と逆相関した。

Dagfinn Aune, et al. Int J Epidemiol. 2017; 46(3):1029-1056.

日本人の野菜・果物摂取と心血管疾患リスク

野菜・果物の摂取は、心血管疾患及び脳血管疾患(CVDs)を防ぐ効果があると考えられている。本研究は2060年までに日本で野菜・果物の摂取量が増加するという様々なシナリオの下で、CVD負荷を示す障害調整生存年(DALYs)を予測した。2015年に全ての年齢層で男性は女性よりも野菜摂取量が多く(292.7g/日>279.3g/日)、果物摂取量は少なかった(99.3g/日<121.0g/日)。2015年のCVD負荷全体に対する割合は、推奨摂取量(野菜350g/日、果物200g/日)と比較して、野菜摂取不足が8.5%、果物摂取不足が12.6%と算定された。2060年にCVD負荷全体に対する割合は、野菜70g/日の増加で5.4%または140g/日の増加で2.4%、果物50g/日の増加で7.9%または100g/日の増加で4.5%に減少すると推定された。日本における野菜と果物の消費量をわずかに増加させるだけで、CVDリスクを軽減できることが示唆された。

Xiuting Mo, et al. BMC Public Health. 2019; 19(1):707.

果物の摂取と高血圧発症リスク低下

システマティックレビュー及びメタアナリシスにより、全粒穀物、精製穀物、野菜、果物、ナッツ類、豆類、卵、乳製品、魚、赤身肉、加工肉、加糖飲料からなる12食品群の摂取量と高血圧リスクの関係を検討した。各食品群を定量的に調査した2017年6月までの前向き研究を検索し、摂取量の最も多いカテゴリーと最も少ないカテゴリーを比較し、ランダム効果モデルを用いて要約相対リスク(RR)と95%CIを推定した。28報の文献がメタアナリシスに含まれた。全粒穀物30g/日(RR 0.92; 95%CI 0.87-0.98)、果物100g/日(0.97; 0.96-0.99)ナッツ類28g/日(0.70; 0.45-1.08)、乳製品200g/日(0.95; 0.94-0.97)の摂取量増加で高血圧との逆相関がみられた。包括的な用量反応メタ分析により、最適摂取量は全粒穀物90g/日、果物160g/日、ナッツ類28g/日、豆類75g/日、乳製品800g/日であった。エビデンスの質は「非常に低い」または「低い」ことに留意する必要があるが、高血圧予防のための食事ガイドラインを裏付けている。

Lukas Schwingshackl, et al. Adv Nutr. 2017; 8(6):793-803.

果物の摂取と肥満リスク低下

メタアナリシスにより、全粒穀物、精製穀物、野菜、果物、ナッツ類、豆類、卵、乳製品、魚、赤身肉、加工肉、加糖飲料の各食品群の摂取量と肥満、腹部肥満、体重増加リスクとの関係を評価した。2018年8月までの前向き観察研究を検索し、43報の報告の最も摂取量の多いカテゴリーと最も少ないカテゴリーを比較し、要約相対リスク(RR)と95%CIを求めた。用量反応メタアナリシスでは、全粒穀物(肥満:要約RR0.93, 95%CI: 0.89-0.96)、果物(肥満:0.93, 0.86-1.00, 体重増加:0.91; 0.86-0.97)、ナッツ類(腹部肥満:0.42, 0.31-0.57)、豆類(肥満:0.88, 0.84-0.93)、魚(腹部肥満:0.83, 0.71-0.97)について逆相関がみられた。精製穀物、赤身肉、加糖飲料に正の相関がみられた。エビデンスの質は「非常に低い」または「低い」であった。

Sabrina Schlesinger, et al. Adv Nutr. 2019; 10(2):205-218.

果物の摂取と2型糖尿病発症リスク低下

システマティックレビューとメタアナリシスにおいて、主要な12の食品群(全粒穀物、精製穀物、野菜、果物、ナッツ類、豆類、卵、乳製品、魚、赤身肉、加工肉、加糖飲料)いずれかの摂取と2型糖尿病(T2D)リスクに関する2017年2月までの前向き観察研究を検索した。ランダム効果モデルを用いてカテゴリー間の比較により要約相対リスク(RR)を算定した。線形用量反応メタ解析により、12の食品群のうち6つがT2Dのリスクと有意な関係を示し、そのうちの3つ(全粒穀物、果物、乳製品)は摂取量の増加に伴ってリスクが減少し、残りの3つ(赤身肉、加工肉、加糖飲料)は摂取増に伴いリスクが増加した。全粒穀物、果物、野菜、加工肉、加糖飲料とT2Dリスクとの間には非線形関係のエビデンスが認められた。リスクを低下させる食品群を最適量摂取すると、摂取しない場合と比較してT2Dリスクは42%減少した。エビデンスの質は、野菜、果物、卵、乳製品、魚が「中程度」、全粒穀物、加工肉、赤身肉、加糖飲料は「高」であった。

Lukas Schwingshackl, et al. Eur J Epidemiol. 2017; 32(5):363-375

日本人の少ない果物摂取は慢性疾患の危険因子

195ヶ国の主要な食品と栄養素の摂取量を評価し、最適以下の摂取量が非感染性疾患(NCD)の死亡率と罹患率に及ぼす影響を定量化した。比較リスク評価アプローチを用いて、25歳以上の成人における各食事危険因子に起因する疾患ごとの負担割合を推定し、食事に起因する死亡数と障害調整生存年(DALYs)を算出した。2017年に、ナトリウム摂取量が多い(死亡数300万 [95%不確実性区間1-5]、7,000万DALYs [34-118])、全粒穀物の摂取量が少ない(死亡数300万 [2-4]、8,200万DALYs [59-109])、果物の摂取量が少ない(死亡数200万 [1-4]、6,500万DALYs [41-92])が、全体および日本を含む多くの国で死亡とDALYsの主な食事危険因子であった。日本は死亡数とDALYsともに、これらの危険因子が1位から3位を占めた。果物(ジュース除く)の最適摂取量は200~300g/日とされた。本研究は国全体及び国を超えた規模で食事を改善する必要性を強調している。

GBD 2017 Diet Collaborators, Lancet. 2019; 393(10184):1958-1972.

野菜・果物摂取増により死亡リスク低下

果物と野菜の摂取量と全ての死因、心血管疾患、癌による死亡リスクに関する2013年8月までの前向きコホート研究についてメタアナリシスを実施した。ランダム効果モデルを用いてプールされたハザード比(HR)及び95%信頼区間(CI)を算出し、線形及び非線形の用量反応関係を評価した。16件の研究が対象となり、4.6~26年の追跡期間中に参加者833,234人のうち56,423人(心血管疾患11,512人、癌16,817人)が死亡した。果物と野菜の摂取量が多いほど、全死因死亡リスクの低下と有意に関連していた。全死因死亡のHRは、野菜・果物の1日1皿分(それぞれ77gと80g)の増加で0.95(95%CI 0.92-0.98, P=0.001)、果物1皿/日の増加で0.94(0.90-0.98, P=0.002)、野菜1皿/日の増加で0.95(0.92-0.99, P=0.006)であった。野菜・果物の摂取増加は、心血管疾患の死亡リスクとも有意な逆相関が観察されたが、癌死亡リスクとの関連はみられなかった。

Xia Wang, et al. BMJ. 2014; 349:g4490.

健康日本21(第三次)野菜・果物目標摂取量
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