水溶性食物繊維と腸内の酪酸産生菌増加

水溶性食物繊

水溶性食物繊維は、腸内細菌により短鎖脂肪酸(SCFAs)、特に酪酸が産生される際の基質となる。短鎖脂肪酸は腸の悪玉菌増加を抑制し蠕動運動を促進するほか、抗炎症作用やグルコース代謝改善作用等の健康効果がある。毎日の食事から摂取される水溶性食物繊維が腸内細菌叢に及ぼす影響を調べるため、弘前市の中高年の住民を対象としたコホート研究を実施した。交絡因子を調整し、低摂取量群260人(平均1.91g/日)、高摂取量群260人(3.30g/日)が選択された。1年後の追跡調査後に参加者を再分類し、低摂取量群と高摂取量群を再度比較した。その結果、水溶性食物繊維の摂取量が多い人は酪酸産生菌の相対的存在数が高かった。また、1年後も高摂取を維持したグループ(196人)では継続して酪酸産生菌の数が高かった。腸内に酪酸産生菌を十分に維持するには、毎日の食事から水溶性食物繊維を継続的に摂取することが必要である。

Satoshi Sato, et al. Microorganisms. 2022; 10(9):1813.

水溶性食物繊維の健康効果レビュー

食物繊維は健康効果が広く知られている栄養素であり、これまでの研究から腸内細菌叢を調節することにより胃腸の健康に大きな効果をもたらすことが示されている。さらに、作用機序の研究により、食物繊維の生理学的機能はその物理化学的特性に大きく依存しており、そのうちの1つが溶解度であると示された。不溶性食物繊維と比較して、可溶性食物繊維は腸内の繊維分解微生物によって容易に代謝され、機能性を有する代謝産物が産生される。本稿は、水溶性食物繊維の構造、特徴、生理機能について概説し、腸内細菌叢の調節を介して人間の健康に及ぼす影響、食事療法及び臨床介入との関連について検討した。

Zhi-Wei Guan, et al. Molecules. 2021; 26(22):6802.

2型糖尿病患者の可溶性食物繊維摂取メタアナリシス

ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューとメタアナリシスを実施し、可溶性食物繊維の摂取による2型糖尿病患者の血糖管理及びBMI改善の効果を定量化した。逆分散法による変量効果モデルを使用し、プールされたデータを分析した。2020年2月までの検索により、1,517人を含む計29件のRCTが特定された。可溶性食物繊維の摂取は対照群と比較して、HbA1c(MD-0.63%, 95%CI -0.90, -0.37; P<0.00001)、空腹時血漿グルコース(MD-0.89mmol/L, -1.28, -0.51; P<0.00001)、空腹時インスリン(SMD-0.48, -0.80, -0.17; P=0.003)、食後2時間血漿グルコース(SMD-0.74, -1.00, -0.48; P<0.00001)、BMI(SMD-0.31, -0.61, -0.00; P=0.05)を統計的に有意に減少させた。用量反応メタ分析により7.6~8.3g/日の推奨摂取量が示された。さらに長期の質の高いRCTが必要である。

Yajuan Xie, et al. Clin Nutr. 2021; 40(4):1800-1810.

日本の2型糖尿病患者の食物繊維摂取

食物繊維が豊富な野菜や果物等の食品は、健康な成人では心血管疾患(CVD)を予防する。本研究は日本の2型糖尿病患者1,414人(40-70歳)のコホートで関連性を調査した。CVDの既往歴のある患者は除外された。主要アウトカムは、脳卒中および冠状動脈性心疾患(CHD)までの時間とした。四分位の平均摂取量は、食物繊維8.7-21.8g/日、野菜・果物228.7-721.4gの範囲であった。中央値8.1年の追跡調査中に脳卒中68件とCHD96件がみられた。第1四分位と比較し、第4四分位の脳卒中のHRは、食物繊維では0.39(95%CI 0.12-1.29, P=0.12)、野菜・果物では0.35(0.13-0.96, P=0.04)であった。CHDとの有意な関連はなかった。増加1g当たりのHRでは、可溶性食物繊維0.48(0.30-0.79, P<0.01)が不溶性食物繊維0.79(0.68-0.93, P<0.01)より低かった。食物繊維(特に可溶性食物繊維)や野菜・果物の摂取増加は、2型糖尿病患者の脳卒中発症の減少と関連した。

Shiro Tanaka, et al. Diabetes Care. 2013; 36(12):3916-3922.

日本人の食物繊維摂取と心血管疾患による死亡リスク

40-79歳の日本人男女5万8,730人を対象とした前向き研究で、食物繊維摂取量と心血管疾患(CVD)による死亡率との関連性を調べた。摂取量はFFQによって測定され、1988~1990年から2003年末まで追跡調査された。計2,080人のCVDによる死亡(脳卒中983人、CHD422人、その他のCVD675人)が記録された。総食物繊維、不溶性食物繊維、可溶性食物繊維それぞれの摂取量は、男女ともにCHD及び総CVDによる死亡リスクと逆相関していた。可溶性食物繊維についてCHDの多変数HR(95%CI)は、男性の最低五分位(1.3g/日未満)に対する最高五分位(2.3g/日以上)が0.71(0.41-0.97; P-trend=0.04)、女性の最低五分位(1.5g/日未満)に対する最高五分位(2.4g/日以上)が0.72(0.34-0.99; P-trend=0.03)であった。果物や穀物の食物繊維摂取量はCHDによる死亡リスクと逆相関していが、野菜ではみられなかった。

Ehab S Eshak, et al. J Nutr. 2010; 140(8):1445-1453.

水溶性食物繊維とLDLコレステロールのレビュー

近年の研究によると、心血管疾患のリスク軽減における食物繊維、特に水溶性食物繊維の役割が強調されている。オオバコ、ベータグルカン、ペクチン、グアーガム等の数種類の水溶性食物繊維は、介入研究でLDLコレステロールを減少させることが示されており、マメ科植物や野菜に含まれる水溶性食物繊維もLDLを低下させることが示唆されている。本研究は、コレステロールを低下させる可能性のある食物繊維と他の植物成分との潜在的な相乗効果を調べ、冠状動脈性心疾患やその他の心血管疾患の発症における食物繊維の保護的な役割について新たな考察を提供する。

Lydia A Bazzano, et al. Curr Atheroscler Rep. 2008; 10(6):473-477.

食物繊維と心血管疾患に関する米国での観察研究

アメリカの国民健康栄養調査の疫学追跡調査に参加し、ベースライン時に心血管疾患(CVD)の既往歴のない成人9,776人を対象に、総食物繊維摂取量および水溶性食物繊維摂取量と冠状動脈性心疾患 (CHD)及びCVDのリスクとの関係を調べた。ベースライン時に24時間の食事調査から栄養素摂取量を算出した。平均19年間の追跡調査中に、CHD1,843件、CVD3,762件が記録された。食物繊維摂取量の最低四分位(中央値5.9g/日)と比較し、最高四分位(20.7g/日)の参加者の調整相対リスクは、CHDが0.88(95%CI 0.74-1.04, 傾向P=.05)、CVDが0.89(0.80-0.99, P=.01)であった。水溶性食物繊維摂取量では、最低四分位(中央値0.9 g/日)と比べ、最高四分位(5.9g/日)の相対リスクは、CHDが0.85(0.74-0.98, P=.004)、CVDが0.90(0.82-0.99, P=.01)であった。

Lydia A Bazzano, at al. Arch Intern Med. 2003; 163(16):1897-1904.

可溶性食物繊維とコレステロールに関するメタアナリシス

可溶性食物繊維のコレステロール低下効果を定量化するため、67の比較試験を対象にメタアナリシスを実施した。2~10g/日の可溶性食物繊維の摂取により、1g当たり、総コレステロール低下は-0.045mmol/L(95%CI: -0.054, -0.035)、LDLコレステロール低下は-0.057mmol/L(-0.070, -0.044)であった。オーツ麦、オオバコ、ペクチン由来の可溶性食物繊維の血漿脂質に対する効果に大きな違いはなかった。グアーガムについては研究の数が限られ効果を比較できなかった。中性脂肪とHDLコレステロールは、可溶性食物繊維による大きな影響を受けなかった。脂質の変化は、研究デザイン、治療期間、食事性脂肪摂取量とは無関係であった。可溶性食物繊維の実用的な摂取量の範囲では、コレステロールを下げる効果は少なかった。

L Brown, et al. Am J Clin Nutr. 1999; 69(1):30-42.

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