にんじん、カロテンと疾患リスク

にんじん

本レビューは、にんじんまたはカロテン摂取と複数の健康上の評価項目について調べた臨床試験及び観察研究についてメタアナリシスにより評価した。計1,329の研究中、26のアウトカムに関して、適格基準を満たす30のメタアナリシスが採用された。にんじんの摂取は、乳がん、肺がん、膵臓がん、胃がん、尿路上皮がん、前立腺がんなど、複数のがんのリスク低下と関連した。カロテンの摂取は、骨折、加齢に伴う白内障、日焼け、アルツハイマー病、乳がん、肺がん、膵臓がん、胃がん、食道がん、前立腺がん、頭頸部がんのリスク低下と関連した。血清カロテン濃度は、全死因死亡率、乳がん、肺がんと逆相関していた。

Xianyanling Yi, et al. J Sci Food Agric. 2023; 103(5):2251-2261.

コホート研究による生のにんじん摂取と癌のリスク低減

生のにんじんの日常的な摂取と癌及び白血病の発症との関連について、25年以上にわたるデンマーク市民55,756人(登録時平均56.2±4.4歳、女性52%)の前向きコホート研究の結果を調べた。肺癌(HR0.76, 95%CI 0.66-0.87)、膵臓癌(0.79, 0.61-1.03)、白血病(0.91, 0.68-1.21)の発生率が用量依存的に減少した。肺癌のみ関連性が統計的に有意であった。乳癌および前立腺癌には関連性及び用量反応はみとめられなかった。大腸癌については以前の研究で関連性がみられた。加工されたにんじんは効果を示さなかった。ポリアセチレン化合物のファルカリノールとファルカリンジオールに予防効果があり、カロテンには効果がない可能性がある。ポリアセチレン化合物は加熱によって不活性化されため、生のにんじんを食べることにより予防効果がある。

Ulrik Deding, et al. Nutrients. 2023;15(3):678.

にんじん12種類の成分比較

色(黄、紫、オレンジ、白)やサイズ(極小、小、普通)が異なる12種類のにんじんの化学的性質、ビタミンC、糖、ミネラル、総ポリフェノール、総テトラテルペノイド、抗酸化活性(ABTS、FRAP、およびORAC)を分析した。オレンジ色の小さい品種を除き、分析対象のにんじんはペクチンの優れた供給源であった(平均1.3%)。紫にんじんは、糖質(11.2g/100g fw)、総有機酸(2.8g/100g fw)、総ポリフェノール(224.4mg/100g fw)、抗酸化活性(17.1mmol Trolox当量/100g dm)について、それぞれ最も高値であった。

Emel Yusuf, et al. Eur Food Res Technol. 2021; 247:3053–3062.

有機栽培または慣行栽培のにんじんの特性比較

有機栽培は世界で急速に成長している食品部門であるが、有機栽培の野菜の平均収量は慣行栽培よりも最大33%低く、慣行農業の施肥率が高いことに起因する可能性がある。4年間、窒素施肥率を同じにした有機栽培または慣行栽培の条件下で、にんじんの収量と品質を比較した。平均的な慣行栽培と比較して、有機栽培のにんじんは、市場価値が14.5%高い、廃棄される収量が10.0%低い、硝酸塩含有量が14.1%低い、ビタミンC含有量が10.0%高いという特徴がみられ、残留農薬は無かった。生産過程で同じ割合の窒素が使用された場合、有機肥料は無機肥料よりも有利であった。

Ingrid Bender, et al. Agronomy. 2020;10(9):1420

果物や野菜の摂取と心血管疾患との関係

前向きコホート研究のSR及びMAにより、4,031,896人の個人と125,112の心血管疾患の発生を含む81のコホートを評価した。果物と野菜の総摂取、果物摂取、野菜摂取は、発生率では、心血管疾患(リスク比、それぞれ0.93[95%CI 0.89–0.96]; 0.91[0.88–0.95]; 0.94[0.90–0.97])、冠動脈疾患 (0.88[0.83–0.92]; 0.88[0.84–0.92]; 0.92[0.87–0.96])、脳卒中 (0.82[0.77–0.88]、0.82[0.79–0.85]; 0.88[0.83–0.93] )の減少と関連した。果物の中では柑橘類、100%フルーツジュース、リンゴに、野菜の中ではネギ属の野菜、にんじん、アブラナ科野菜、緑の葉物野菜に大きな効果がみられた。有害な関連性を示す野菜・果物はなかった。

Andreea Zurbau, et al. J Am Heart Assoc. 2020 Oct 20; 9(19):e017728.

にんじんパウダー摂取による血漿カロテノイド変化と食べやすさ

にんじんパウダー摂取が野菜摂取を補うための有効な戦略であるかどうかを調べた。健康成人42名が、にんじんパウダー(CP)[カロテノイド5.2mg/日]またはカロテノイド豊富な野菜(VEG)[カロテノイド11.4mg/日]を4週間摂取する群に無作為に割り当てられた。血漿総カロテノイド増加は群間で同程度であった(CP: +0.31[0.09, 0.42]㎍/mL; VEG: +0.33[0.23, 0.48]㎍/mL, P = 0.40)。CP群ではVEG群と比較して「好き」と「食べたい」は有意に低く、「飽き」は有意に高かった(P<0.05)。「摂取への努力」ではCP群は一定であったが、VEG群は4週間後に減少した。

Maria Castro, et al. Journal of Functional Foods. 2019; 60:103421.

絵本による幼児のにんじん食促進

にんじんに関する絵本が幼児のにんじん消費量に与える効果及びその方法を調査した。幼児104名(4~6歳)が4つの条件のいずれかの読書群に無作為に割り当てられ、5日間連続して学校で、にんじんを宣伝する絵本の読書会に参加した。条件は2つの読書スタイル(物語を聞く受動型と、物語についての質問に子供が答える対話型)と登場する2種類の動物(にんじんに近いイメージのウサギと、そうでないカメ)の組み合わせで分けられた。本に触れていない幼児56名の対照群と比較して、読書群では他の食べ物との比率で約2倍のにんじんを摂取した(p<0.01)。また、子供たちが物語についての質問に答えて積極的に参加する対話型の場合、絵本は効果的であることが示された。対話型読書は幼児のポジティブな感情を引き起こし、本の中の健康的な食品に対する好感度と消費を高めることを示唆した。

Simone M. de Droog, et al. Appetite. 2014; 73:73-80.

紫にんじん摂取による肥満への影響

紫にんじんのアントシアニンとフェノール酸は、炎症経路の阻害を通じて動物モデルの炎症と代謝異常を抑制する。4週間、乾燥した紫にんじん(アントシアニン118.5mg/日とフェノール酸259.2mg/日を含む)の摂取が体重、体組成、血圧、脂質、炎症マーカー、肝機能、食欲に及ぼす影響について、脂質及び炎症マーカーが正常な肥満男性16名(平均53.1±7.6歳、BMI 32.8±4.6kg/㎡)を対象に調べた。その結果、体重、体組成、食欲、食事摂取量、LDL、総コレステロール、血圧、C反応性蛋白に統計的に有意な変化はみられなかった。HDLコレステロールは介入群の方が低かった(p<0.05)。ASTとALTは変化せず、介入が安全であることを示した。

Olivia R L Wright, et al. Can J Physiol Pharmacol. 2013; 91(6):480-488.

にんじんの成分組成、機能特性と加工

にんじんは、カロテノイドや食物繊維が豊富で、他の健康増進特性を持ついくつかの機能性成分が相当量含まれている。抗がん作用を持つ天然の抗酸化物質の重要な供給源として認識されているため、その消費量は着実に増加している。インドではジュース、濃縮物、乾燥粉末、缶詰、ジャム、キャンディー、ピクルス、ガズライラなどの加工品がつくられている。約50%のβ-カロテンを含むにんじんの搾りかすは、ケーキ、パン、ビスケットや機能性食品に有用である。本レビューでは、にんじんとにんじんの搾りかすの成分組成、健康を増進する成分、機能性、製品開発、副産物の利用、これらの潜在的な用途に焦点を当てている。

Krishan Datt Sharma, et al. J Food Sci Technol. 2012; 49(1):22-32.

にんじんジュースの摂取による血清コレステロール値への影響

にんじんには、HMG-CoA還元酵素阻害作用のあるβ-カロテンが多く含まれる。健康な男性ボランティアがにんじんジュース(β-カロテン6.6mg/缶)を1~3缶毎日4週間摂取した。3缶/日の摂取は、血清総コレステロール値を有意に低下させた(202±26 mg/dl → 189±25 mg/dl)。血清総コレステロール値を低下させるβ-カロテンの最小用量は19.8mg/日と示唆された。摂取開始前の血清総コレステロール値200mg/dl以上の人は低下の程度が顕著であった。すべての群で、にんじんジュース摂取によりβ-カロテンの血清濃度が上昇したが、摂取期間中の血清レチノール濃度に統計的有意な変化はなかった。

大嶋俊二, et al. 日本食品化学学会誌. 2003; 10(1):22-28

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